200771日 (日)

事務局通信 その12 平成19年7月1日

当会作業所の様々なハンディを持ったメンバーさんは、ここに来るまでに紆余曲折を経てこられた方がほとんどです。プライバシーの問題もあってあまり具体的な話はできませんが、諸事情により社会福祉法人の法定施設から敬遠され、たらい回しにされてきた方、養護学校の先生から問題児と認識されていた方、法制度の谷間にあって行き場がなく自宅待機を余儀なくされてきた方、など様々です。県外出身の方もおられますが、わざわざ県外の作業所に来るようになった背景には、それなりの事情があります。
10年、20年という作業所での経験の積み重ねによって、磨き作業ができなかった人が工具を駆使したパーツ交換作業までできるようになったり、紙切れ一枚しか持てなかった人が冷蔵庫や家具も安定して運べるようになったり、毎日作業所に通ってくることができなかった人が休まず来られるようになったり、と変わってきました。ある程度長いスパンで見ないと気づきにくいことですが、相手の言葉が心に届くようになる、自分の気持ちを自身の言葉で言えるようになる、自分をコントロールして精神的なバランスが取れるようになる、といった内面的な変化もありました。 
 様々なハンディを持った方の、ハンディの程度を表す言葉として、「重度」「軽度」という言い方があります。一般的には重度の人の方が軽度の人よりも大変だと思われがちです。しかし、福祉の現場に詳しい方であればご存知かと思いますが、福祉的サポートの必要性という点で見ると、軽度の人が楽で、重度の人が大変だ、とは限りません。生育環境、家族的背景、本人の内面の問題他、様々なものが絡み合っているからです。軽度の方で、反社会的・非社会的行為を繰り返し家庭崩壊寸前の状態にあるというケースもあれば、重度の方で、民間企業で働き、安定した社会生活を営んでいるケースもあります。重度、軽度というのはハンディのひとつの側面を測る尺度にすぎません。 
 社会福祉法人等の運営する法定施設における公的資金の支給基準は、重度の人には多く、軽度の人には少なく、というのが基本となっており、必ずしも福祉的サポートの必要性を反映しているわけではありません。障害者自立支援法でも、障害程度区分の判定基準は身辺自立能力を重視したものとなっており、最終段階である程度修正されるものの、実態との乖離が現場サイドからも指摘されており、厚生労働省の調査結果等でも明らかとなっています。
 社会福祉法人等、個別給付事業を行う法定施設においては、施設経営の安定を重視すればするほど、受け入れに必要なコストと得られる収入(公的資金)とのバランスを考えるようになり、結果として福祉の本質から離れてしまう危険性をはらんでいます。
ハンディを持ったメンバーさんを見るときに、この人を受け入れるといくらもらえるか、ということが脳裏をよぎる瞬間があるかもしれません。軽度だが多くの福祉的サポートを必要としている人を受け入れることは、大変な割にはお金にならない、つまり施設経営という観点からはマイナスと見られる可能性が高い、ということになります。公的資金の支給額は通所日数に比例するため、中身の充実よりも日数の確保が優先されることもあるでしょう。メンバーさんの休む日数が多くなると、職員に給料が払えなくなるという事態も想定されるからです。
 福祉とは何か、何のためにあるのか。永遠のテーマかもしれません。(文責:小山)