最新情報 6月21日

知られていない障害者福祉U

 本来、私達にとって身近なものであるはずの福祉が、遠い世界の出来事となってしまっているのはなぜでしょうか。障害者福祉の場合、施設福祉及び保安処分的措置の推進によって、ハンディを持った人達を隔離してきたことが大きな原因の一つとなっています。しかし、今日そのやり方も限界に来ています。
 以下、5回に渡り連載していきます。ご意見、ご感想など寄せて頂ければ幸いに存じます。
 なお、本稿は筆者個人の意見であり、太陽と緑の会としての公式見解ではないことを予めお断りいたします。(文責:太陽と緑の会専任職員 小山 隆太郎)


@法定施設が上で小規模作業所が下?

 成人期障害者の福祉施設は、おおざっぱに分けると、法定施設(認可施設)と法定外小規模作業所(無認可作業所)とがあります(ここでは小規模通所授産施設については割愛します)。法定施設は社会福祉法人、地方自治体などが運営しており、家族会などの任意団体やNPO法人には運営できません。
 法定施設は多額の公的支援を受け、建物も立派であり、規模も大きいです。職員の待遇は準公務員並みの水準が保証され、大卒の「専門性」が高いとされる職員をそろえています。
 一方、小規模作業所の場合、都道府県によって大きな違いがあるので一律に述べることはできませんが、徳島県の場合、そのほとんどは建物も粗末で、規模も小さいです。公的支援は法定施設の9分の1しかなく、職員の待遇は社会保険なしで5万〜10万というレベルで、定年退職された方や主婦の方が多く、若手の職員はほとんどいません。同じ障害者福祉施設でも、小規模作業所は法定施設に比べ、運営的にかなり厳しい状況にあるのが現実です。
 一般的には、法定施設の方が小規模作業所よりも対外的信用度も高く、「ちゃんとした団体」と見られがちです。しかし、社会的に果たしている役割から考えると、「法定施設が上で小規模作業所が下」という考え方は、必ずしも正しくありません。


A行き場を失った人達の受け皿としての「小規模作業所」

 平成13年6月現在、徳島県内には37箇所の小規模作業所(障害者地域共同作業所)がありますが、もしこれらの作業所がすべてなくなると536人の障害者の方が行き場を失います。ちなみに現在法定通所施設に通っている障害者の方は352人ですから、その1.5倍もの人が自宅待機となってしまいます。
 今、小規模作業所に通っている方だけが行き場を失うわけではありません。これから行き場が必要となる人も、望みを断たれ希望を失うことになります。
 例えば、毎年100人以上の障害者の方が養護学校高等部などを卒業しますが、一般就労できるのはそのうちの5分の1くらいであり、残りの5分の4の方は法定施設か小規模作業所に行きます。一般就労される方の場合も、職場適応訓練という制度を利用している方が大半を占めており、6ヶ月ないし1年という期限が切れると終了し行き場がなくなってしまう、というケースも少なくありません。
 また、精神病院では、医療点数の計算方法の変更により、患者さんの入院期間が長くなればなるほど医療報酬が減少するようになったこともあって、急性期を脱し、ある程度状態が落ち着いてきた患者さんはなるべく退院させていく方向に変わりつつあります。しかし、退院してすぐに一般就労できるケースは少ないため、一般就労と病院との中間施設としての小規模作業所に通うケースが増えつつあります。
 もし、小規模作業所がなくなれば、学校を卒業する人も病院を退院する人も行き場を見つけられず、自宅待機を余儀なくされ、家族との関係も煮詰まってきます。


B施設・病院に依存したやり方は限界に来ている

 「そういう人は法定施設や精神病院に入れたらいい」と言われるかもしれません。しかしそうなると、まず徳島県内で行き場を失った方のために、定員30人の法定施設が9つ、精神病床が258床、新たに必要となり、10年間で施設運営費61.3億円、施設整備費等11.7億円(推定)、医療費87.7億円、計約160.8億円のお金がかかります。その大半は医療保険と税金によって支払われます。
 次に、今後徳島県内の学校を卒業される方のために、30人定員の法定通所施設を毎年3つ作りつづけ、10年間で施設運営費112.4億円、施設整備費等39.2億円(推定)の税金を新たに投入しなければなりません。また、仮に毎年10人の精神障害の方が新たに入院する(小規模作業所があればそちらに通っていたはずの方々です)と考えると、10年間で18.7億円の医療費増加になり、その大半は医療保険と税金によって支払われます。
 県民1人当たりの負担額は10年間で約4万1000円になります。20年間ならば約11万円、30年間ならば約21万円と、雪だるま式にふくれあがっていきます。施設や病院に頼ったやり方は財政的にも限界に来ているのが現実です。
 
 
Cグループホームがあれば「通過施設」ではなくなる

 ハンディを持った子供たちのご両親が最も心配されているのは、自分達の死後のことです。自分達が健在であるうちは自分達で面倒を見ることができるが、死んだ後は施設に入って面倒を見てもらう以外にない、と考えておられる方が多いです。しかし、入所の施設はなかなか定員に空きが出ない(亡くなる、もしくは老人施設に移る、という人が出ない限り、めったに欠員が出ない)ため、入れられるうちに入所施設に入れて安心したい、となります。
 小規模作業所は「通過施設」と言われることもあります。つまり、いずれは入所施設に入れるが、それまでの間、家でぶらぶらされても困るから、どこか通うところがあればうれしい、ということなのです。
 しかし、もしグループホーム(定員4名ないし6名)があれば話は変わってきます。親の死後も世話人のサポートを受けながらグループホームで生活し、昼間は小規模作業所に通って作業をする、という青写真が描けるようになると、入所施設は必ずしも必要でなくなります。それどころか、自分の生まれ育った町で住み、自分達の生活を作っていくことができるようになります。ハンディを持った人達にとっては、どちらが幸せな生き方であるかは一目瞭然です。


Dこれからは地域福祉の時代

 また、厚生労働省は「入所施設をこれ以上増やさない」との方針を打ち出しています。これは、障害者の方のためを思ってということもありますが、むしろ施設運営の公的資金による維持が財政的に厳しくなってきたことが大きな理由です。優先順位から言えば、障害者福祉よりも高齢者福祉の方が深刻な問題としてのしかかってきています。
 障害者福祉は将来的には、小規模作業所とグループホームに大きなウェイトがおかれ、どうしても法定施設を必要とする人、つまりより多くの福祉的フォローを必要とする人のために、法定施設が少しだけ存在する、という形になると考えられます。この形こそ、ハンディを持った人達にとってもよりよいあり方で、しかも税金の節約にもなる、つまり国民にとっても望ましいものなのです。
 地域福祉の推進は一石二鳥となります。従来の法定施設のうち、活動の取り組みに熱心でない所(いずれ淘汰されます)や、社会福祉法人を天下り先の一つとして考えている一部の官僚の方々は猛反対されるでしょうが…。