最新情報 2月13日

リサイクル日記・その8

 月の宮生活棟の共同生活メンバーでもある富開君がチラシを見つけてきた、バイキング形式の新しいレストランに、スタッフ1名(私)、1年間ボランティア1名、メンバー7名の計9名で行きました。1人1000円、制限時間60分で食べ放題というもので、「いつもお疲れ様」という意味をこめての昼食会です。全員が一度に行くと店を閉めなければならないため、3つに分かれて行くことになっており、我々がその第一陣という訳です。
 お昼が近づいてくると、浩基君や大木君はそわそわして何となく落ち着きがなくなってきます。走川君は、三木さんが値段をつけた品物を買い物かごに入れて運びながら、私の顔をチラッチラッと伺います。岡田さんは店の場所がどこか確認するために店に電話を入れたりしながら行ったり来たりしています。喜彦さんはおなじみのティッシュ箱を4箱ほどビニールの買い物袋に入れて、スタンバイOKの状態となっています。
 「そろそろ行きますので、行く人は車に乗って下さい」とマイクで放送すると、さっと玄関前に集まり、次々と9人乗りのワゴン車に乗り込んできました。体の大きい喜彦さんが3人掛シートの真ん中に陣取っているため両横に座っているメンバーは座席からずり落ちそうです。
 「俺、朝飯食ってへんのや」
 「ぼく、おなかすいてる〜」
 「どんなんがあるんかなぁ」
 「ケーキはないの?」
 「ケーキは夜のコースじゃないとないんよ」
 皆、これから何を食べようか、あれこれ思案しているようです。ワイワイと話をしながら30分が過ぎバイパスを走っていると看板が右手に見えてきます。
 「あっ、看板があった」すばやく見つけたのは喜彦さんです。さすが1日ごはん8杯食べる大食漢、気合の入れ方がいつもと違います。Uターンして無事到着します。
 皆、はやる気持ちを抑えながら店に入ると店員の方が出てこられて、「大変申し訳ございませんが、ただ今順番待ちとなっております。20分から30分ほどお待ちいただくことになりますがよろしいですか。」と言って整理券を渡してくれました。
 「ちょっと車に乗って待とうか」
 やや足取り重く、一行は車へと戻ります。車の中でしばらく沈黙が流れ、全員おあずけをくった犬のようです。
 「もういけるん違うん?」
 5分が過ぎたところで大和さんがボソッとつぶやきます。
 「まだ5分しかたってへんで。まだや」
 10分が過ぎたところで大和さんがボソッとつぶやきます。
 「もういけるん違うん?」
 「まだ10分しかたってへんで。案外せっかちやなぁ」
 15分が過ぎました。
 「そろそろ行こうか」
 ようやく順番が来ました。大木君が目を細めて何があるかひとつひとつ確認しています。お金を払い、テーブルへ案内されました。
 2つのテーブルに分かれて座り、いよいよ始まりです。やはり最初は肉を取る人が多いようで、寿司を取る人もいます。から揚げ、スパゲッティ、サラダなど次々と平らげていきます。しゃべる人はほとんどいません。黙々と食べています。
 「走川君、おなかいっぱいになったで?」
 走川君はおなかを軽くたたいて、小声で「おなか、いっぱい」
 「浩基君は?」
 「もうおなかいっぱいじゃぁ」
 「喜彦さんは?」
 「…………」
 「大木君は?」
 「もうあきまへん」
 「麻耶ちゃんは?」
  首を横に振って「もう食べれん」
 しかし、その後デザートタイムとなりました。プリン、ゼリー、アイス、フルーツ、みつ豆、と一通り食べます。
 「これは別腹じゃ」とほっぺたが落ちそうなくらいにこにこと食べている大和さん。
 いつもとは別人のような真剣なまなざしでアイスクリームをすくいあげる大木君。
 「腹いっぱいになりました」とようやく満足した様子の喜彦さん。
 こんな客ばかりが来たらこの店はつぶれてしまうかもしれませんが…。
 帰りの車中は口もなめらかです。満足そうな表情がルームミラーに映ります。

 作業所に帰ってくると、残っていたメンバーが次々と聞いてきます。
 「どうやった?」
 「ようけあったよ」と言って、浩基君が食べた物をひとつひとつ挙げていきます。
 「今日はありがとう。とてもおいしかったわぁ」
 浩基君はこぼれてくる笑みを抑えきれないようでした。
 誰でもそうかもしれませんが、ハードな作業が続く中でちょっとこういったイベントが入ると、しんどい中でも少し元気になれるようです。機会があればタイミングを見て、また行けたら、と思います。