投稿日:2020年08月28日

事務局通信~若者は夜の街で、という思い込み

徳島でも3名の方が新型コロナウィルスで亡くなられました。いずれも65歳以上の高齢者の方とのことです。
最近、県南のカラオケ喫茶やカラオケスナックで、新型コロナウィルスの検査で陽性と判明する方が続出しています(9月1日現在で26名)。いわゆるクラスターというものです。利用客の方で陽性と判明したのはいずれも60代から90代の高齢者の方です。さらに増える可能性も否定できません。

これがもしカラオケ喫茶ではなく、キャバレーとかライブハウスで、20代、30代の方が多数陽性と判明した、ということだったら、バッシングの嵐だったかもしれません。
「ウィルスをまき散らし、高齢者の命を危険にさらして何とも思わんのか。3人も亡くなっとるんやぞ、この人殺し」
「若者は無責任や。非常識にもほどがある」
「皆、我慢しとるのに若者は自分勝手や。今の状況をまったく分かっとらん」

さてこの場合、県知事は記者会見でどのようなコメントをしたでしょうか。

他者に感染させるリスクという点では若い世代の方も高齢者の方も違いはないはずです。にもかかわらず、夜の街で遊ぶ若者(実際は40代、50代も多いのですが)は非難される一方で、カラオケ喫茶でマスク、シールドなしにカラオケに興じている高齢者の方は若者ほどは非難されません。この差は一体どこから生じて来るのかと考えてみると、やはり行政サイドの発表やマスコミの報道のあり方も関係しているように思います。
徳島県は高齢者の方の比率が高い県です。選挙に足を運んでくれるのも高齢者の方が多いです。テレビの視聴者も高齢者の方が多いです。若い世代は動画サイトや動画配信サービスが中心でテレビはほとんど見ない、という方も少なくありません。そのようなことを考えると、高齢者の方の行動をあからさまに非難して反発を招きかねないような発表や報道はしずらいのかもしれません。

誤解のないように付け加えておくと、喫茶やスナックでカラオケに興じることが悪いことだ非難しているわけではありません。確かに、新型コロナウィルスの主な感染経路が飛沫感染であることを考えれば、緊急事態宣言の中でバッシングの対象となったパチンコ店よりも、カラオケ喫茶やカラオケスナックの方がはるかに感染リスクは高いと言えるでしょう(パチンコをしながら歌ったりしゃべったりする人は少なく、パチンコ店の方が人の密度も低い)。
しかし、顔なじみの仲間とカラオケに興じるのが数少ない楽しみ・生きがいとなっている方、家に居場所がなくカラオケ喫茶が唯一の居場所になっている方、「ボケ防止に役立っとるんや」という方もおられるでしょう。一人一人の事情は他者にはうかがい知れないものです。

しかしそう考えると、若い世代だけ叩くのはフェアではないと思います。自分がカラオケ喫茶を必要としているように、ライブハウスを楽しみにしている若者もいる、と考えられたらよいのかもしれませんが、ライブハウスに足を運ぶ若者を「なんでこんな大変な時に我慢できんのや」と非難する一方で、自分はカラオケ喫茶に週3回通っている、などということが案外あったりするものです。
「ライブハウスは不特定多数で多人数だから危ないが、カラオケは顔なじみばかりで少人数だから大丈夫」
「若い人はいろいろやれるからいいけど、自分にはこれしかないから」
「ライブハウスに行くのは遊びだが、カラオケに行くのは生きがいだから、同じではない。生きがいを失ったら生きていけないが、遊びは我慢できるはずだ」
と心の奥底で言い聞かせながら…。

「夜の街で遊び歩いている若者」と「感染に気を付けて外出を自粛している高齢者」といった思い込みに支配されるのはとても危険なことです。案外それは、行政発表、テレビのニュースやワイドショー、近所の人との井戸端会議、SNSなどを通じて刷り込まれただけのものなのかもしれません。有名な人、権威のある人、地位の高い人、学識経験者、医者が言っているからすべて正しい、などということはありません。

重症化リスクの高い高齢者の方でも、すでに全国各地でクラスターの発生事例があるカラオケ喫茶に自ら行ってしまう。これが人間の現実なのだと思います。感染拡大に伴う医療崩壊だけは絶対に避けなければなりませんから、ある程度の行動変容は必要だと思いますが、人間は感情の生き物であり、理屈だけで動くには限界があります。

感染者が存在することが日常となった今の日本においては、毎日陽性判明者や行動履歴を発表し症状の有無にかかわらず濃厚接触者を検査し陽性判明者をしらみつぶしに隔離していくやり方を改め、重症化リスクの高い方にウエイトを置いた在り方に変え、保健所や病院など限られた社会資源や予算を有効に使うことを考えていく時期に来ているように思います。


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