投稿日:2017年08月10日

事務局通信92 

事務局通信92 日本経済の原則から乖離した雇用
 
 就労継続支援A型事業所において、これまでは「公的資金(訓練等給付金)の利用者工賃への補填(流用)」が認められてきましたが、今後は原則として認めない方針を、厚生労働省が打ち出してきました。

A型事業所では、「通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能な」方との間に雇用契約を締結し、最低賃金を支払うことが求められています。
ところが、最低賃金の支払いに見合う成果を出せるくらいの方は少ないです。なぜなら、そのような方は通常の事業所に雇用されているケースが多いからです。

一般雇用市場から締め出されてしまった方に最低賃金を支払うためには、何らかの形で下駄を履かせなければ、施設運営が成り立たちません。「訓練等給付金(公的資金)の工賃への流用」を厚生労働省が認めてきた背景もここにあります。
しかし、その結果、給付金を悪用した障がい者版貧困ビジネスが展開されるようになりました。A型事業所の利用実人員数は平成21年からの6年間で約9.2倍に増加(6368人から58377人へ。厚生労働省調査)、共同連の問題提起もあって、今回の動きになりました。

営利企業の参入を認めたことを問題視する向きもありますが、そもそも、工賃に下駄を履かせなければ成り立たないようなA型事業所の制度設計自体にも問題があったとは言えないでしょうか。最低賃金を給与として支払うためには事業収入(売上)が必要で、基本的にはそれに見合う以上の労働がなければ成り立たない、という民間では当たり前の原則が見失われている面があったように思います。
安倍政権の5年間で最低賃金は13%(徳島の場合 654円から740円へ)上昇しましたが、中小零細企業では財源の捻出が死活問題となっているところも少なくありません。

公的資金による補填が認められなくなったことにより、採算を見込んで開業したA型事業所が閉鎖される動きも出てきました。今後閉鎖が相次ぐ事態が想定されており、行き場を失った利用者の方の問題も深刻です。市場原理から乖離した条件で雇用された体験が、新たな受皿へ移行する際の足かせとなる可能性も危惧されます。

東京オリンピック開催に伴う特需が終わった時、障がい者施策も正念場を迎えるかもしれません。

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