投稿日:2015年04月23日

事務局通信68

事務局通信68〜「違いを認める」

「続いて、Aさんいきます。Aさんの現在の時給は146円です。Aさん、希望は?」
「10円アップ」
「Aさんの希望は10円アップということで、ではBさん」
「3円アップ。服かける仕事とか、よくやってくれた」
「次、Cさん」
「希望通り(の10円アップ)。積込の仕事がはやい」
「Dさん」
「現状(前回と同じという意味)。仕事中にスマホをいじっているときがある」

太陽と緑の会リサイクル作業所では、様々なハンディを持ったメンバーの給料は、全員参加のミーティングで決定しています。時給は100円から638円まで、一人一人違います。メンバーが、お互いの「違い」を認めていくために、あえて「差」をつけています。

Yさんは作業中、ハンディの問題もあって、頻繁にトイレに行きます。
お客様が「活用して下さい」と言ってお車で品物を持って来て下さいました。
品物の量が少し多かったので、若手メンバーのEさんが「Yさん手伝って〜」と叫びましたが、返事がありません。Yさんはトイレに行ったようです。
「またおらん」「いつもトイレや」「何でや」とEさん、怒りが収まりません。

「この間の時給ミーティングで、Eさんの時給どうなったっけ」
「8円上がって153円になった」
「Yさんがトイレに行っている間、Yさんの分もしてくれとるから、かなぁ」
「…」
「Yさんの時給はいくらか知ってる?」
「僕と同じくらいかな」
「151円。Eさんの方がYさんよりも時給が高いんよ。だから、Yさんがトイレ行っている間、Eさんが頑張るのは、当たり前ちゃうで」

前回の時給ミーティングで、Yさんについては、「トイレに行くことが多くて肝心な時におらん」「トイレにいる時間が長い」といった、批判的なコメントが、他のメンバーから相次ぎました。
「Yさんはあかん人や」という空気に包まれ始めたところで、「時給が仕事に見合っているかどうか、が問題。トイレに行くことが多くても、時給が高くなければ問題はない」と一石投じました。

通うだけで精一杯、頑張りすぎてしまうと、幻聴や被害妄想がひどくなって、再入院に至るリスクを抱えている方もいます。ハンディの異なるメンバーからは理解しにくい部分であり、「皆が頑張って仕事しているのに、あいつ一人休憩してさぼっている。ちゃんと仕事せんとあかん」となることもあります。

「できない」「分からない」ために学校や社会で苦渋を味わってきた人が、同じことを「もっとできない人」「もっと分からない人」にやることで溜飲を下げる。差別されてきた人が差別する。そういう側面もあるかもしれません。それは裏を返せば自分を貶めていることになります。
様々なハンディを持ったメンバーが、自分の足で立って行こうとする場所では、排除とは異なる軸が必要です。
作業で成果を上げたメンバーについては、他のメンバーが「時給」という形でその作業を評価する。
同時に、時給200円の人が働いている間、時給100円の人が休憩することもメンバーが認めていく。
どちらか一方だけ認めるのではなく、両方認めていくことがバランスにつながります。「時給」とは、あくまで、お互いを認め合っていく仕組みのひとつです。

職員も例外ではありません。「私は指導、支援をやっているから、資格を持っているから、売上に貢献しなくてよいんだ」という言い訳はここでは通りません。1か月13万円もらっているのであれば、それをメンバーに納得してもらえるだけの仕事(売上への貢献)を示さなければ、「何や、職員だけ守られとるんか」といった声が出てきます。

「職員は税金で守られていて指導・支援でメシが食えるが、メンバーはそうではない」という場所になってしまったら、「職員もメンバーも共に働く仲間だ」と言っても、メンバーには届きません。
「それやったら、ワシが職員になるから、あんたがメンバーになってくれ」
メンバーのHさんだったら、そんな言葉を職員に返してくるでしょう(施設職員の方には嫌われるかもしれませんが)。

今年特別支援学校を卒業したばかりの新人メンバーGさんが初めての時給ミーティングに参加しました。本人は5円アップの希望を出しましたが、皆の評価は平均すると9.5円アップでした。

「もっと給料をもらえるようになって、(作業に必要な)服とか、靴とか、かばんとかを買いたい」
「E君よりは自分の方がよう仕事していると思う」
「やってもやらなくても給料が同じ、はしんどい」
こちらもますます試されそうな予感です。(文責・小山)