投稿日:2011年02月28日

事務局通信39 

事務局通信〜急がば回れの福祉〜

平成21年度の生活保護費が3兆円を突破、被保護人員は約176万人(約127万世帯)、14年間で2倍に増えました(厚生労働省調べ)。一人当たり年間約171万円(うち半分は医療費)が支給されています。加えて、昨年厚生労働省の公表した生活保護の捕捉率は32.1%、つまり生活保護基準未満の人がすべて生活保護を受けると、受給者は3倍に増え、生活保護費は約9.4兆円となります。これは国家予算の約1割、消費税収入に匹敵する額です。
生活保護費の増大を抑制するために、「新たなセーフティネットの提案 保護する制度から再チャレンジする人に手を差し伸べる制度へ」(全国知事会・全国市長会・平成18年10月)、「社会保障制度全般のあり方を含めた生活保護制度の抜本的改革の提案」(指定都市市長会・平成22年10月)、さらには厚生労働省による生活保護法改訂案の検討も始まっています。
例えば、以下のような施策が提案もしくは検討されています。
?稼働可能層(18〜65才未満)に対し、集中的かつ強力に就労自立を促進、生活保護の支給を3〜5年に制限(有期保護制度)。就労体験や軽作業、ボランティアへの参加を半ば義務付ける方向になる可能性もあります。
?一般世帯との均衡を考慮した保護費の見直し。つまり老齢基礎年金(満額支給で年間約79万円)や最低賃金の収入(フルタイムで働くと年間約175万円。ここから税・社会保険料、医療費の自己負担などを支払う)に比べ、生活保護費が「高い」ので、低い方に合わせて削る、ということです。
 これらの議論は、介護保険や障害者自立支援法の導入と共通するものがあります。財政難を理由とする福祉予算の抑制が第一の目的だということです。
 就労を望む人が就労できるように、様々なアプローチによって支援していく「就労支援」は、積極的に推進すべき施策だと思います。本人が就労によって、その人なりに立っていくことができ、自分の人生を取り戻していく。結果的に福祉予算は減りますが、本来それはあくまで結果であって、目的ではありません。
 理念よりも予算の増減にウェイトを置いた福祉施策は、現場の実情から離れた費用対効果の少ない予算のばらまきにつながり、最終的には財政破綻とセーフティネットの崩壊を招くことになります。
働かないのは本人の問題、つまり努力の足りない、ヤル気のない自分の責任ではないか、という見方もあります。しかし、例えば非正規雇用の割合が高くなったのは、本当に個人だけの問題なのでしょうか。
「働くこと」「自分の足で立つこと」とは何なのか。そのためには何が必要なのか。行政にお任せするのではなく、私たち一人一人が社会全体の問題として、「急がば回れの福祉」を考える必要があるのかもしれません。(文責:小山)